アップルからセンサーへ。TDKの大胆なビジネス転換は成功するか – ニュースイッチ Newswitch

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 TDKは2016―17年の間に総額2000億円を投じ、センサーメーカーなど5社の買収を実施した。主導したのは、月内に就任1年を迎える石黒成直社長だ。買収と同時に好調な高周波部品事業を米クアルコムへ売却するなど、取捨選択を進めて“石黒色”を強めている。センサーメーカーとして舵(かじ)を切る中、成長を確かなものにできるか。石黒社長の真価が問われる2年目となる。

 TDKは5月、センサーメーカーの米インベンセンスの買収を完了した。買収額は約1500億円で、08年の独エプコスに次ぐ大型買収となった。

 狙いは成長戦略に位置付けるセンサー事業の強化だ。これに伴い、事業のセグメントも刷新した。20年度には同事業の売上高で16年度比約5倍の2000億円を目指す意向だ。

インベンセンス買収の評価

 ただインベンセンスの買収については「少し高すぎたのでは」(外資系アナリスト)と懐疑的な意見もある。5月には得意先としていた米アップルからの受注が減り、競合他社が供給することになったと報道され、株価の下落が続いた。TDKの販売網を活用し中国のスマートフォンメーカーにも展開するものの、石黒社長は「17年度の業績への貢献は難しい」と懸念を示す。

 だがシナジーについては、速効性に乏しいことは織り込み済みだ。インベンセンスは売上高460億円程度のファブレスメーカーであり、その魅力は企業規模ではない。工場を持たないながら高い設計力を持ち、センサー製品を組み合わせたモジュールの開発などで大きく貢献するとみられている。

 その他の買収した企業についても設計力に強みがある企業が多く、将来に向けて研究開発など事業基盤を強化する思惑がうかがえる。

 直近のTDKの業績はクアルコムへの高周波事業の売却により、約1444億円の売却益を計上した。高周波部品は高い収益が見込める事業だが、業界関係者からは将来を見据えた経営判断として評価する声が聞かれる。

 ゴールドマン・サックス証券の高山大樹アナリストは「事業ポートフォリオを大胆に変えようとしている」と話す。

 17年度の売り上げ予想は16年度比5・8%減の1兆1100億円と、高周波事業の売却の反動は否めない。それでもTDKは高周波部品を捨て去り、センサーメーカーとして歩むことを決めた。20年度には売上高1兆5000億円を目指し、躍進を狙う。

 センサー事業に攻勢をかけるTDK。同事業は単品販売だけでなくソリューションとして展開できる側面があり、従来の電子部品のビジネスとは一線を画している。

 TDKは2016―17年に総額2000億円を投じ米インベンセンスなど5社の買収を行ったが、買収した企業の技術力や製品を組み合わせ、新たなソリューションを生み出そうとしている。また、センサー専門の組織を立ち上げるなど企業統治の面でも体制を整えつつある。

            

IoTソリューション企業へ

 「センサーは毛色が違うビジネスになる」―。近年、電子業界では、こんな言葉が飛び交っている。電子部品ビジネスは基本的に受注産業であり、特に受動部品は顧客のニーズを捉えて需要を先回りするような開発に取り組んでいる。

 だがIoT(モノのインターネット)時代が本格的に到来すれば、生産設備やインフラなど、あらゆる製品・システムにセンサーが搭載することになる。

 つまり、それらセンサーのデータを集めたり、送信したりする部品が必要になるため「部品メーカーから(IoT向けの)ソリューションを提案していけば(ビジネスの)可能性は無限になる」(石黒成直TDK社長)という。

 具体的には、触覚デバイスや通信モジュール、バッテリーなどの製品を融合することで、新たなIoTソリューションを創出できる。特にTDKは、同ソリューションの中でセンサーに活路を見いだした。

 あらゆる事象を高精度に感知するには、センサーの技術力や、センサーを組み合わせたモジュール製品が重要になる。IoT時代のキーパーツになる点に着目し、この数年でセンサー製品を拡充してきた。ガスや圧力、慣性など保有するセンサーの種類は世界トップクラスとされる。

ガバナンスに課題も

 一方、研究開発では、買収先の製品群との融合が進んでいる。スイスのミクロナスとは、ホール素子センサーとトンネル磁気抵抗素子(TMR)センサーを融合した「磁気複合センサー(仮称)」を開発した。2019年までに、TMRセンサーで納入実績のある車載向けとして供給を始める計画だ。

 また4月に買収したベルギーのICセンスとは、ASIC(特定用途向けIC)の開発技術を応用することで合意した。計測した値を正確に読み取ることで、センサー製品の全般的な性能を底上げできる。すでにTDKは、高精度なデジタル出力型TMRセンサーの量産にめどを付けた。

 着実にビジネスを進めているが、ガバナンス面には課題もある。短期間で多くの企業を買収したことから、統治の難しさは残る。そこでセンサー事業の専門組織として「センサシステムズビジネスカンパニー」を発足。買収先を同組織に加えることで、一元的な管理と横断的な研究開発を狙う。

 市場の評価と向き合いつつ、大胆な戦略が実を結ぶか。次の一手が待たれる。

             


(文=渡辺光太)






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