国内初の「ネット炎上保険」はどこまで補償してくれるのか?

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SNSで誰もがメッセージを発信できる今、一般消費者の影響力は時に企業をも上回ることがある。もし、提供するサービスやそれにまつわる広告が「炎上」してしまえば、会社にとって手痛い損失となるだろう。そうしたネット炎上に備える「保険」が、損害保険ジャパン日本東亜から販売されている。炎上によって生じた損失はどのように補償されるのか?(取材・文/松原麻依)

保険は炎上対策・事後対応に特化
独自システムで24時間ネットモニタリング

ひとたび炎上すれば、その企業のマイナス情報はネット上に残り続ける。今やネット炎上対策は必要不可欠なスキルだが、まだまだ不得手な会社が多い

 損害保険ジャパン日本興亜が「ネット炎上対応費用保険」の販売を開始したのは今年3月のこと。国内初のネット炎上に特化した保険としてリリース時から注目を集めていた。

 死亡保険や火災保険がそうであるように、保険といえばコトが起こった後に損害をリカバリーするための金額が支払われることが多い。一方、ネット炎上対応費用保険では、炎上のリスクをなるべく小さくするための“対策”にも力を入れている。

 その実働部隊のひとつが、損保ジャパン日本東亜と提携してサービスを提供する株式会社エルテスだ。ネットのリスク検知サービスに特化した同社の目玉商品のひとつが「Webリスクモニタリング」サービスである。同サービスの具体的な内容について担当者に話を聞いた。

「Webリスクモニタリングでは専用のシステムを使って常時ネットをリサーチ、お客様(被保険者)の社名やサービス名などのワードを検出し、炎上リスクがある投稿はシステムにより自動で判別しています。ただし、個人が発信するメッセージの中には機械だと読み取れないワードも存在するため、常時十数人体制で専任のスタッフも稼働しています」(エルテス担当者)

 同サービスでは、デジタルと人の目を駆使して24時間体制でネットをモニタリングする。ネット炎上は騒ぎが大きくなるまで会社側も気づかないケースが多いが、専門のノウハウを持った第三者機関によって早めにリスクを特定できれば、損害を抑えることができるのだ。

 それでも万一、炎上が起きた場合に備えて、事後対応のコンサルティング、マスコミ対策支援などが保険のサービスに含まれている。

事後対応コンサルも含まれる
炎上保険の内容とは?

「炎上の損失を最小限に留めるには、何が批判の対象となっているのかを客観的に把握することが求められます。しかし、炎上の理由が商品そのものにあるのか、広告なのか、従業員の対応なのか…要素は無数に存在します。企業側にとっても、炎上の標的になるという経験はそうそうないので、過去のデータの蓄積も少ない中で正確な判断をすることは非常に難しいのです」(同)

 たとえば、炎上の発端が従業員の対応によるものだったとしても、実は「問題ある従業員を雇っている企業」に批判の矛先が向いていることもある。にもかかわらず、問題の責任を従業員に押し付けたりすると、火に油を注ぐ可能性が高くなるという。判断を見誤ると、より面倒な事態になってしまうのだ。

「弊社では過去のデータベースや専門家の知見などを参考に現状を把握し、それを踏まえてお客様へのご提案を行っています」(同)

 ネット関連の支援はエルテスが、マスコミ対応や謝罪の仕方といったネット以外の事後対応については、SOMPOリスケアマネジメント株式会社がサービスを提供しているという。これらの対応にかかった費用については、同保険の補償内容に含まれている。

 一方、仮に炎上によって企業のブランドイメージが損なわれたとしても、その損害に対する金額は支払われない。「炎上による損失額を正確に計算することが難しい」というのが大きな理由だ。

ひとたびネットで炎上すれば
情報が残り続ける恐ろしさ

「ネット炎上対応費用保険」に一定の需用があるのは、炎上が企業にとって重大なリスクと捉えられているからだろう。実際のところ、ネット炎上はどのようなデメリットをもたらすのか。

『ネット炎上の研究』(勁草書房/田中辰雄・山口真一著)の共著者で国際大学グローバル・コミュニケーション・センター講師の山口真一氏は、ネット炎上のリスクとして「その企業のマイナス情報がネット上に残り続けることが問題」だと指摘する。

「一度炎上した案件は事態が収束してもネットでは残り続けることが多い。企業名をウィンドウに打ち込んだら、検索エンジンの一番上に炎上案件が出てくることもあります。企業に対する悪いイメージがずっとつきまとう可能性だってあるわけです」(山口氏、以下同)

 企業にとってブランドイメージを損なうことは、それこそ大きな損失につながりかねない。しかし、そうしたリスクがあるにもかかわらず、多くの日本企業は炎上への対策・対応が十分ではないという。

「炎上のリスクをゼロにすることは不可能かもしれませんが、炎上しやすい要素というのは確実に存在します。たとえば、ジェンダーに関する問題意識が高まっている今、『女性の役割』を固定化するようなコンテンツは『性差別的』と批判されやすい。コンテンツを制作するにしても、本来なら会議の場に若い人や女性の意見などを取り入れることで炎上要素を発見しやすくなりますが、それを実行している会社がどれくらいあるのかは疑問ですね」(同)

日本企業の多くはいまだに
ネット炎上対策が下手

 実際、ここ数年は「女性差別」「性差別」と批判されて炎上するコンテンツが後を絶たない。さらに、前述のエルテスの担当者が話すように、もし炎上してしまったら、その後の対応によって事態は大きく変わってくる。

「たとえば、CMが『性差別』と批判されたとしても、制作側の意図と視聴者の解釈が異なる場合もあります。それを批判されるままに平謝りしたり、コンテンツを取り下げたりすると、視聴者に『企業側が差別的なCMを放送したと認めている』といった印象を与えてしまう可能性も。時には主張を通すほうがよい結果をもたらすこともあります。例えば、以前ユニ・チャームがおむつブランド、ムーニーの動画広告を配信した際、それがワンオペ育児を賛美している(女性の役割を固定化している)と批判されたことがありました。しかし、ユニ・チャームは『育児の現実を描き、育児中の母親を応援したいという意図であった』として、公開を続けました」(同)

 最近、炎上して取り下げられたコンテンツといえば、サントリーのビール『頂』のPR動画が記憶に新しい。

 動画では、食事をする女性の口元がアップで映し出され「お酒を飲みながらしゃぶるのが好き」などとコメント、ビールを飲んだあとは「こっく~ん」と心なしか恍惚とした表情を浮かべる。案の定、ネット上では「セクハラ」「下品すぎる」との批判が殺到した。炎上するや否や、サントリーはわずか1日で動画を取り下げている。

 サントリーの動画の取り下げが正しい判断だったかどうかは別として、炎上狙いかと思われるような攻めたコンテンツを配信し、批判されたらあっさり取り下げる、というのはサントリーに限らず近年多い事例だ。それは、多くの企業がネット炎上の対策・対応について圧倒的に不慣れであることの表れとも言えるだろう。

 そうした意味でも、専門のノウハウをもった第三者によるサービスは、確かに一定のリスク回避になるだろう。

「『ネット炎上対応費用保険』が注目を集めたのも、コンサルティングやモニタリングシステムなどのサービスに価値を見出した企業が多かったからではないでしょうか。今後は保険に限らず、炎上対策や事後対応に特化したサービスが広がる可能性もあるでしょう」(同)

 ここ20年近く、我々は気軽に発信できるネットの便利さを享受し、企業側もマーケティングなどで大いに活用してきた。しかし、そこに加わるリスクへの対策・対応についての市場はまだまだ発展途上にあるようだ。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら



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