幸せを極大化するためにPairsが活用するAWSと機械学習

Home » 媒体 » ASCII.jp » 幸せを極大化するためにPairsが活用するAWSと機械学習
ASCII.jp, IT・インターネット, JAWS-UG コメントはまだありません



急成長中のマッチングサービスを支えるクラウドの利活用とは?

2018年01月29日 09時30分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

2017年10月20日に開催された第1回X-Tech JAWSでLoveTech代表として語ったのはマッチングサービス「Pairs(ペアーズ)」を手がけるエウレカの臼井友亮さん。「オンラインデーティング」の価値を上げるべく、AWSや機械学習をフル活用する現場の様子を生々しく語った。

600万人会員なのに、使っていることが共有されないPairs

 「人の出会いを支えるPairsとAWSの切っても切れない関係」というタイトルで、いわゆる「LoveTech」でのAWS活用について語ったのは、エウレカの臼井さん。システム開発研究所、ハンズラボを経て、昨年エウレカに移ってきた。現在はSREチーム/サーバーサイドエンジニアとして、Go言語でアプリケーションを書いたり、開発チームをまとめたり、CTOとPairsの事業戦略を踏まえた中長期な技術戦略を共に考えているという。

エウレカ 臼井友亮さん

 さて、エウレカが手がけるPairsは恋愛・婚活を支援するマッチングサービスで、日本と台湾の累計会員数はすでに600万人を突破している。年齢、居住地、身長、趣味などさまざまな条件で検索ができる機能や、9万を超えるコミュニティを通じて、自分の趣味や価値観の合う理想の相手を探し、気に入った相手に「いいね!」を送り、相手から返信が来るとマッチングが成立する。

 こうして生まれたマッチング数は5000万組に及んでおり、カップル数は3万5000組以上に上る。「マッチングが成立したら、お相手とのメッセージ交換でコミュニケーションを深めてもらうのですが、現状はメッセージ交換から出会うところまでをPairsで手厚くサポートできていません。そのため、厳密にカップル数をトレースしているわけではないですが、ユーザーの方がPairsを退会するときに、『Pairsで恋人ができた』と答えていただいた組数から算出しています」と臼井さんは語る。

 「オンラインデーティングサービス」を謳うPairsだが、ネガティブな印象の出会い系サービスと一緒くたにされることは多いという。「ほとんどの人はPairsを使っていることを、他の人に共有したがらない」(臼井さん)とのことで、会場で調べた限り、使っていることを明言したのはX-Tech JAWS主催グループの吉江瞬さんだけだった。これに対して、臼井さんは、「会場にあと5人はいると思う(笑)。今後は同業他社といっしょに昔の出会い系のダーティなイメージを覆していく」とアピール。こうしたエンジニア勉強会にきちんと登壇するのもそんな活動の一環といえるだろう。

Pairsでの機械学習の導入とそのつきあい方

 Pairsにまつわるエモい話から、Pairsのシステム構成というテックでいきなり堅い話に突入する。PairsはWebブラウザやAndoroid/iOSアプリなどから利用できるが、ブラウザ版はAngular/AngularJSとTypeScriptのシングルページアプリケーションになっている。APIやバッチ、管理画面、決済、審査などサーバーサイドはおおむねGo言語で実装し、完全ではないもののマイクロサービス化を実現しているという。

 AWSに関してはDynamoDBやElasticache、S3、SQS、CloudWatchなどを採用。「よく枯れたコンポーネントと、Code兄弟みたいな便利なサービスを組み合わせて使っている。SREチームの文化として、システムが複雑にならないよう配慮している」(臼井さん)。7割はAWSだが、CDNやWAFにアカマイ、BIにBigQueryを採用するなど、フルAWSの構成ではない。臼井さんは「Akamai Image Manager and NetStorageは、イメージをいい感じにリサイズしてくれるので、CloudFrontもこれやってくれないかな」とリクエストした。

Pairの技術構成要素

 続いて、臼井さんはPairsでの機械学習の活用について披露する。1つ目は、自社のデータを活用しているモデルを用いた投稿審査。投稿はユーザーの自己紹介やメッセージ、学歴、職業、趣味などが対象で、送信NGとなったテキストは協力会社が審査している。「安心・安全を謳っているので、ユーザーにとって不快なコンテンツを極小化することがビジネス上の至上命題」と臼井さんは語る。

 もう1つは不正ユーザーの検知で、ユーザーのプロフィールやサービス内でのふるまいから特徴量を決め、TensorFlowを使用して、学習モデルを作成。ユーザーのふるまいから不正ユーザーかどうかをバッチ的に推論し、推論結果はカスタマーケアにSlackで通知される。推論による検知を目的としているため、最終的にはカスタマーケアが目視で判断しているという。

不正ユーザーの投稿を検知するシステム

 機械学習の導入により、審査や社内のカスタマーケアのコストや審査完了までの時間が削減できた。また、マイクロサービス構築に関しての知見も得られた。一番大きかったのは、不正ユーザーを早期に検出することで、善良なユーザーが不快な体験をする時間が短くなった。とはいえ、機械学習を使うのが目的ではないため、機械学習の推論のみならず、ルールベースの判定も併用し、ビジネス上の効果を狙っているという。

 面白かったのは、機械学習というエマージングなテクノロジーとどうつきあっていくか。臼井さんは、見積もりがぶれやすいタスクなので、基本的には短・中期で見て成果の出やすいやり方で、ユーザーに価値を与えていくことが重要だと指摘。「長い期間なんにもリリースできなくて、非常に辛い。家に帰って体育座りしてたいみたいな状況に陥る(笑)」(臼井さん)。反面、短・中期的にできることばかり進めていても、エンジニアにとって技術的なチャレンジやR&Dに結びつかない。そのため、あえて「機械学習を使う」といった形で手段を目的化することも必要で、この二律背反に苦しんでいるという。

 一方で、ビジネスメンバーからは機械学習は「銀の弾丸」に見られがち。「それを否定するためには、原理を理解する必要があるので、やはりスクラッチの経験は重要。これをやらないと、貴重なデータに妄想をまぶしただけのガベッジ(くず)ができあがってしまう」というのはまさに金言。完了条件の難しい機械学習という分野でも、成果を出しつつ、原理を理解し、長期的な価値のアウトプットを最大化する必要があると語った。

 現状PairsではAWSの機械学習やデータ分析のサービスを使っていない。臼井さんは今後使っていくためのリクエストとして、Amazon MLでより多くのアルゴリズムやオートメーションをサポートすること、画像認識サービスであるAmazon Rekognitionの精度や機能が向上することなどを挙げた。

オンラインデーティングを文化のレベルまで持っていきたい

 最後、臼井さんは「ほんと、胡散臭くて申し訳ない(笑)」と断りながら、LoveTech業界の動向を語った。

 現在、多くのWebサービスはリアルとの接点を求めており、市場拡大するLoveTech界隈でもマッチしたユーザー同士を飲食店で引き合わせるコラボイベントなども開催されており、潜在的なユーザーを発掘している。リアルからWebに向かった既存の事業会社とは逆の方向で、Webからリアルへの着地を進めているのが現在の動向だという。

 こうしたなか、臼井さんは「不特定な男女が集まるマッチングサービスにおいて、つらい思い・不快な思いをさせてしまうユーザーを極小化し、世界の幸せを極大化する」という方向性を、テクノロジー観点で実現していくとPairsの方向性について説明。その上で、「人が人を好きになるのは、人類の普遍的な現象なので、あらゆる接点からまだアプローチできていないユーザーに使ってもらいたいです。オンラインデーティングを文化のレベルまで持っていきたい」と語り、さまざまな業界とコラボレーションを呼びかけた。

■関連サイト



カテゴリートップへ






コメントを残す